課題Ⅰ

CO2吸収・固定能を増強したスーパーDAC水稲の開発

目標

植物体のCO2吸収・固定能力がきわめて高い「スーパーDAC水稲」の開発を目指します。具体的には、葉の光合成能力・養分吸収能力(ソース能)に関わる遺伝子、種子数や種子サイズなど収穫部位の容積(シンク容量)に関わる遺伝子をゲノム編集技術等によって改変し、新たな育種素材を開発します。

北陸193号の改良によるCO2固定促進を示した模式図
図1. 北陸193号の改良によるCO2固定促進を示した模式図

 研究内容

イネは人類にとって最も重要な作物の一つであり、日本の全作物作付面積の約1/3に相当する140万haにおいて栽培され、世界全体では1.6億ha栽培されています。イネによるCO2吸収・固定量は膨大であるものの、子実や稲わらに対する現在の利用方法では、脱炭素への貢献は不十分です。イネ子実や稲わらをCO2固定剤として利用するとともに収集・加工コストを減じていくためには、光合成によるCO2吸収・固定能力と子実への炭素貯蔵能力を飛躍的に高め、さらに貯蔵した炭素の利用効率を高めることが求められます。

本課題では、DAC特性(CO2吸収・固定能力、炭素貯蔵能力および炭素利用効率)を飛躍的に高めた新規イネ育種素材を開発することを目指します。具体的には日本における最多収品種のひとつ「北陸193号」を原品種として用い、ゲノム編集技術等を活用して複数の遺伝子に変異を導入することによってDAC特性の向上を図ります。

  • 葉の光合成能力や根の養分吸収能力(ソース能)に関わる遺伝子群の機能強化をゲノム編集技術によって実現します。
  • 種子数や種子サイズ(シンク容量)に関わる遺伝子群の機能強化をゲノム編集技術やDNAマーカー選抜によって実現します。
  • デンプンやセルロースの分子構造や貯蔵量の変化を通じた利用効率の向上をゲノム編集技術によって実現します。
  • ソース能とシンク容量を同時に改変したイネを人工交配と世代促進によって開発し、人工環境や自然環境下においてDAC特性を評価します。
シンク容量、ソース能および炭素利用効率改変による北陸193号改良戦略
図2. シンク容量、ソース能および炭素利用効率改変による北陸193号改良戦略

課題の構成

I-1. 水稲の光合成機能・養分吸収能力の最大化

I-2. 水稲のシンク容量の最大化

I-3. 水稲のセルロース、澱粉含有量・組成改変による炭素利用効率の最適化

I-4. ソース能・シンク容量を同時に改良した新規育種素材の開発と評価


課題 Ⅱ

作物バイオマス増大による炭素固定に関する研究

目標

空気中のCO2固定能に優れたC4作物であるトウモロコシおよびソルガムとそれらの近縁野生種を用いて、バイオマス量を飛躍的に増大させた雑種系統を作出し、炭素固定の増大に貢献します。また、農地を含む土壌は炭素貯留に高い役割を果たしていることから、作物バイオマスに由来する土壌中の炭素貯留量の評価を行い、その能力を最大化するための特徴を抽出します。

研究内容

  • トウモロコシおよびソルガムのCO2吸収利用能力を増大させるため、野生種を含む近縁種のゲノムを用いた雑種強勢を利用して、地上部もしくは地下部の利用性を向上させる技術を開発します。
トウモロコシの地上部バイオマス増大の研究
図3. トウモロコシの地上部バイオマス増大の研究
  • 作物バイオマスに由来する土壌中の炭素貯留量を評価するために、作物残渣(地中の根や茎など)の経時的な分解および固定評価を通じて、土壌炭素動態について情報を取得します。最終的に、得られた情報を基に土壌炭素動態モデルを作成し土壌炭素動態の長期的な予測を行います。
  • 得られた作物データについて整理し、遺伝的改良と環境の相互作用を可視化するツールにより改良された系統のCO2吸収能力を把握します。
地下部バイオマスの増大および土壌炭素固定評価技術の開発
図4. 地下部バイオマスの増大および土壌炭素固定評価技術の開発

課題の構成

II-1. C4作物のゲノム改変によるバイオマス増大技術の開発

II-2. 作物バイオマスを用いた土壌炭素固定評価技術の開発

II-3. バイオマス作物の増大に向けたデータ活用


課題 Ⅲ

DAC農業からの資源利用工程の経済価値および環境負荷の評価

目標

スーパーDAC作物により効率的に固定された炭素は、主に農作物地上部(子実や茎葉)として回収できます。これらの資源を有価物に変換し、脱炭素に貢献できる持続可能な産業を創出するための方法やその有効性を調査・解析します。

研究内容

  • スーパーDAC作物生産からグルコース等の発酵性糖質や繊維素材などの回収・利用を想定した経済価値および環境負荷の評価を行います。
DAC農業で大気中のCO2からのものづくり
図5. DAC農業で大気中のCO2からのものづくり
  • 作物の素材特性および変換特性に関する評価データを活用し、糖化物または高付加価値な新素材製造の可能性を評価し、新規事業化が可能なサプライチェーンのシナリオを策定します。
持続性資源からの新素材製造の可能性を評価
図6. 持続性資源からの新素材製造の可能性を評価

課題の構成

III-1. 作物生産から資源利用工程における経済価値および環境負荷の評価研究

III-2. 試算・評価のための資源特性解析および調査